2009年07月31日
夏色の服

Takachiho, août 2008
[夏色の服」
よく似合うと
買ってくれた
夏色の服を
今年も
ひとりで
抱きしめて 仕舞う
青いインク
なくなるほど
愛しさを綴り
励まし
なぐさめ
指さきが 染まる
あなたを縛る
想い出を
そっと解いてあげるのに
見上げる窓
夜の庭に
薔薇色に咲いて
ひっそり
私を
遠ざけるように
愛におびえて
傷ついた
あなたのそばで
暮らしたい
もう一度 春が来るように
大貫妙子「夏色の服」in『Cliché』
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2009年07月30日
総選挙に向けて(2)

Kagoshima, avril 2009
権力の行使や服従の習性が人を堕落させるのではない。正当と認められない力が揮われ,不当に地位を得た抑圧的な権力に服従するとき,初めて頽廃が生ずる。
トクヴィル『アメリカのデモクラシー』/ 松本礼二訳
タグ :トクヴィル
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2009年07月27日
総選挙に向けて(1)

Kagoshima, février 2009
デモクラシーを教育し,できうればその信仰を蘇(よみがえ)らせ,習俗を純にして,その動態を規制し,実務の知識でデモクラシーの未熟を補い,盲目の本能に代えてその真の利害を知らしめる。さらに,民主政治を時と所に適したものとし,状況と人間に応じて修正を加える。これらが今日社会を指導する人々に課される第一の義務である。
トクヴィル『アメリカのデモクラシー』/ 松本礼二訳
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2009年07月24日
いだく寒さもない

Tokyo, avril 2009
(いだく寒さもない)
もう邂逅の新しい名はない
尽きぬものもあるのではない
あるべきは,
たたかわずして未知となることばを
愛した,
喪失のあとかただ
けれどもおまえはいのちの誠実を知らない
しいられたこの世の後悔を知らない
世界を正面に向いて恥らっている
おまえの左右の群像も
もうだれひとり生きるものではない
生涯の心理はふかい憎しみとかわり
わたるべここころもない
いだく寒さもない
時にひとしく永久の身体もない
稲川方人「(いだく寒さもない)』in 『稲川方人詩集』(『われらを生かしめる者はどこか』)
タグ :稲川方人
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2009年07月23日
あざやかな存在

Paris, mars 2008
「ノン・レトリック I 」
たとえばわたしは 水をのむ
ゴクンゴクンと のどを鳴らす
たとえばわたしは 指を切る
切ったところが 一文字にいたむ
たとえばわたしは 布を縫う
ふくろが出来て ものがはいる
たとえばわたしは へんじを書く
やっぱりわたしもあなたが好き と
それから そうして 子供を生む
ほかほか湯気のたつ赤んぼを!
ひときれのレモン
丸のままの林檎
野っ原のなかの槻の大樹
橋をながす奔流
一本のマッチ
光るメス
土間のすみにころがっている泥いも
はだか馬
わたしもほしい
それだけで詩となるような
一行の
あざやかな行為もしくは存在が
新川和江「ノン・レトリック I 」in『新川和江詩集』
タグ :新川和江
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2009年07月21日
奥さんは,その後別の誰かによって...

Kagoshima, février 2009
私は今,三十四歳である。マルクスの「資本論」も,E・H・カーの「浪漫的亡命者たち」も,そしてロートレアモンの「マルドロールの歌」も,ギターの教習書も中古品のリンガフォン・レコードセットも古本屋に売りとばしてしまった。あの下宿は−−いまも銭湯から三軒目で,大学生を二人だけ間貸ししているだろうか?そして,たった一度だけ私を映画「エデンの東」にさそって,客席で手をにぎりあい,それだけで何事にも到らずじまいだった中野の奥さんは,その後別の誰かによって欠落の埋め合わせに成功しただろうか?時は陶酔だ。「のんびりとした郷愁をいだくかに見えるあれらの頑丈な船」(ボードレール)に乗って,私たちは自分の過去(ストーリー)を,添削しに戻ることが可能なものだろうか?
寺山修司「歴史」in『寺山修司詩集』
タグ :寺山修司
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2009年07月20日
母の声

Kyoto, février 2009
「発育」
ブレーメルハーフェンの
造船所のみたのは
二月もおわりのころだったか
黒いかたまりのようなものが
北海の水に浮いていた
あおくはれあがった地表のうえに
くらい重量をおいて
わたしは目前の
黒い氷をみた
母は造船所の大きな影の下でも
まだ
亡き娘のあばらを引いている
黒い氷だ
死んでしまうと
つめたいものにはよわいのよ
私の姉のなまみをかくしながら
夜風に
母の声がする
荒川洋治「発育」in『荒川洋治詩集』(『鎮西』)
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2009年07月17日
彼はわたしの手に胸を置き...

Tokyo, juin 2009
「私たちがこうしている間,温室の外の人たちは,いったい何をしているのかしら」
「でたらめな言葉を並べているだけさ」
「わたしたちの言葉は,でたらめなんかじゃないわよね」
「この温室の中では,誰でも本当のことを口にすることができるんだ」
「そうね。だからわたしは,ここへ来たんだわ」
彼はわたしの手に胸を置き,植物のように静かなキスをした。
小川洋子「誰かが君のドアを叩いている〕(抜粋)in『アンジェリーナ』
タグ :小川洋子
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2009年07月16日
手紙

Kagoshima, novembre 2008
手紙
流しのステンレスには
丸まったなしの皮,ひとつづき
その裏側へも
手紙をまっているきもちが
ずっとふりつもってしまった
まっていると
いじわるのように手紙はこない
またないふりで
空ばかりあおいでいる方がいい
それで夕やけをたくさん見た
きょうも のぼり坂ばかり歩いている
冬木町の伝言板には
五つの顔の氏名手配書があって
そのうちのひとつに
ご協力ありがとうの張紙
街のなかで
強盗暴行犯の顔がひとつだけ忘れられていた
その日 風がつめたくふいて
十一月がきた
ゆびわをしていないので
私のくすり指は すこし
オキシドールのにおいがする
目鼻をきちんとつけておいて下さい
会いにいきます
うすい手紙が一通
夜になってから まいこむ
小池昌代「手紙」in『小池昌代詩集』(『水の町から歩きだして』)
タグ :小池昌代
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2009年07月15日
フランス大革命

Paris, mars 2009
おそらくフランス革命ほど強力で急激な,破壊的で創造的な革命は,かつてなかっただろう。にも,かかわらず,フランス革命からまったく新しいフランス国民が生まれ,それ以前にまったく存在しなかった基礎の上に大建造物を築いた,と信じることは大変な思い違いとなろう。フランス大革命は多数の副次的・二義的な事柄を生み出したが,主要な事柄の萌芽を発育させただけである。こうした事柄は大革命以前に存在していた。大革命が大きな原因となって事が始まったというよりも,大革命はその原因がもたらした諸結果を整理し,体系化し,合法化したのである。
アレクシス・ド・トクヴィル『旧体制と大革命』/ 小山勉訳
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2009年07月14日
眠っている彼女

Paris, mars 2008
僕は眠っている彼女を眺めるのが好きだ。もちろん,抱き合っている時の彼女も,僕に話し掛けている時の彼女も,ぼんやり遠くに目をやっている時の彼女も好きだけれど,眠っている彼女は僕を一番安らかにする。途切れることなく次々と,見知らぬ誰かの娘や孫や母親になっていって,結局,眠りに落ちた時だけしか,本当の自分を僕に見せてくれない気がするからだ,口紅を落とした,素肌の唇を眺めることができるのは,ベッドの中だけだ。
小川洋子「彼女はデリケート」(抜粋)in『アンジェリーナ』
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2009年07月13日
死のよろこび

Kagoshima, février 2009
死のよろこび シャアル・ボオドレエル
蝸牛(かたつむり)匍(は)ひまはる泥土(ぬかるみ)に,
われ手づからに 底知れぬ穴をほらん。
安らかにやがてわれ老ひさらぼひし骨を埋(うず)め,
水底(みなそこ)に鱶(ふか)の沈む如(ごと)忘却(わすれ)の淵(ふち)に眠るべし。
われ遺書を厭(い)み墳墓をにくむ。
死して徒(いたずら)に人の涙を請(こ)はんより,
いきながらにして吾(われ)寧(むし)ろ鴉(からす)をまねぎ,
汚(けが)れたる脊髄(せきずい)の端々(はしばし)をついばましめん。
あゝ蛆虫(うじむし)よ。眼なく耳なき暗黒の友,
汝(なれ)が為めに腐敗の子,放蕩の哲学者,
よろこべる無頼の死人は来(きた)れり。
わが亡骸(なきがら)にためらふことなく食(くい)入りて,
死の中(うち)に死し,魂失せし古びし肉に
蛆虫よ,我に問へ。猶(なお)も悩みのありやなしやと。
シャアル・ボオドレエル「死のよろこび」in永井荷風訳『珊瑚詩集:仏蘭西近代抒情詩選』
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2009年07月12日
翼あるもの(甲斐バンド)

Kagoshima, janvier 2009
「翼あるもの」
どしゃ降りの雨をぬけ
晴れ間に会えたとしても
古いコ−トはきっと今は
まだ脱ぎ捨てはしない
今は きっと
行く先を決めかねて
佇む一人の曲り角
さすらう風の小耳にそっと
行く先たずねてる
うつろな 今日
明日はどこへ行こう
明日はどこへ行こう
俺の海に翼ひろげ
俺は滑り出す
お前というあたたかな港に
たどり着くまで
疲れ果てた身体をだまし
ただ鳥のように翔ぶさ
風に乗り 雲をつきぬけ
自由を夢見て めざして
大きく はばたく
現代に生きる俺たちに
星は進路を指してくれる
夜の海 誰かが高く 燈火を
生命をともしてる 悲しげに 高く
明日はどこへ行こう
明日はどこへ行こう
いま夕陽に翼ぬらし
俺は帰るのさ
お前というあたたかな港に
たどり着くまで
俺の海に翼ひろげ
俺は滑り出す
お前というあたたかな港に
たどり着くまで
俺の声が聞こえるかい
お前に呼びかける
こらえ切れずそばにいたいと
呼びつづける
甲斐よしひろ「翼あるもの」
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2009年07月09日
あなたに

Kagoshima, avril 2009
歌曲
その曲をきいただけで
少女は魔女にかわってしまった
その曲をきいただけで
猫はけむりになってしまった
その曲をきいただけで
兵隊は戦争を忘れてしまった
その曲をきいただけで
ファノンはキリエを好きになった
その曲をきいただけで
人は誰でも恋をしたくなった
そんな曲を
あなたにあげたい
寺山修司「映画 トマトケチャップ皇帝」in 『寺山修司詩集』
タグ :寺山修司
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2009年07月08日
恋愛

Kagoshima, mai 2009
氷柱(つらら)の虹がとほくけぶり。
無数の槍に。
そして変幻して胸あばれ。
白く灼け肉喰らひたい。
しづかな夜が。
或る夕暮れのあとにきた。
アンドロメダの丘のふもとに寝てゐた天馬は。月の光の投網におどろき。突然前脚をたかくあげて
大空間にとびあがった。
或る夕暮にどうしてみたか。
どうしてみたかは知りはしない。
稲妻のやうにからだのなかはあかるくなり。
術(すべ)ないあけくれを。
しづかな天の森のくらした。
時間は恋愛のまはりに休み。
時間は地球を走ってゐた。
草野心平「恋愛」in『草野心平詩集』(『絶景』)
タグ :草野心平
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2009年07月02日
レモン・ティ

Tokyo, mai 2009
レモン・ティ sに
あなたの住む−−市は
右に歩いても
左に歩いても
すぐに出はずれてしまう街であった
わたしたちは
なんとなく仕方なげに微笑しあって
場末の小さな喫茶店にはいり
扱いかねた午さがりのとほうもない時間をそこに停泊させた
ロケーション・セットのような安普請の
せまい階段はおそろしく急で
階下(した)のほうはどこやらか
ガスの洩れるにおいがした
近くの椅子では
四十がらみのジャンパーの男が
若衆を相手に
牛の皮を剥ぐもようを声高に話して聞かせていた
わたしたちは
なんとなくまた仕方なげに微苦笑して
階段をきしませながら運ばれてきた
しぶいレモン・ティに口をつけた
新川和江「レモン・ティ」in『新川和江詩集』
タグ :新川和江
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2009年07月01日
生涯の樹

Kagoshima, juin 2009
「(みつぎ橋の上)」
罪のむくいを求めるものと
ともにある,
すでに終わりを救われてあるものと,
山のきしに発足する
一列のちいさな橋
海のきしに流れる
一千,二千の落としもの
あしたの火に生まれ,
夜の火に眠る。
ともにある,
やぶれるものと
やぶれえぬものと,
ことにおごそかな宿命を礼拝して
生涯の樹に徹底した。
けれども水は濁流し,
この橋は
私の揺籃を模倣する。
稲川方人「(みつぎ橋の上)」in『稲川方人詩集』(『われらを生かしめる者はどこか』)
タグ :稲川方人
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