2009年07月13日

死のよろこび

死のよろこび


Kagoshima, février 2009

死のよろこび   シャアル・ボオドレエル

蝸牛(かたつむり)匍(は)ひまはる泥土(ぬかるみ)に,
われ手づからに 底知れぬ穴をほらん。
安らかにやがてわれ老ひさらぼひし骨を埋(うず)め,
水底(みなそこ)に鱶(ふか)の沈む如(ごと)忘却(わすれ)の淵(ふち)に眠るべし。

われ遺書を厭(い)み墳墓をにくむ。
死して徒(いたずら)に人の涙を請(こ)はんより,
いきながらにして吾(われ)寧(むし)ろ鴉(からす)をまねぎ,
汚(けが)れたる脊髄(せきずい)の端々(はしばし)をついばましめん。

あゝ蛆虫(うじむし)よ。眼なく耳なき暗黒の友,
汝(なれ)が為めに腐敗の子,放蕩の哲学者,
よろこべる無頼の死人は来(きた)れり。

わが亡骸(なきがら)にためらふことなく食(くい)入りて,
死の中(うち)に死し,魂失せし古びし肉に
蛆虫よ,我に問へ。猶(なお)も悩みのありやなしやと。
シャアル・ボオドレエル「死のよろこび」in永井荷風訳『珊瑚詩集:仏蘭西近代抒情詩選』




Posted by Nomade at 23:47│Comments(0)
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