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Posted by チェスト at

2012年02月17日

永遠の出会い




Tanégashima, juillet 2006


 先生はゆっくりと視線を降ろし,ぼくを見て笑った。涙目の奥で,薄い色彩の瞳が穏やかな光を放っていた。
「出会ったら,必ず惹かれ合ってしまう。何度でも,何度でも」
 震える指を水平線に向ける。
「あんな感じだよ。空と海は,必ず一緒になるんだ。いつでもね,何処でもね」
 びくらみんな,そんなたったひとりの相手をずっと求め続けている。
(誰かいませんか?恋の相手求めてます)
「きみたちは出会ってしまったんだ」
「みたいですね」
「海のように」
「空のように?」


市川拓司『いま,会いにゆきます』
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タグ :市川拓司


Posted by Nomade at 11:08Comments(0)

2012年02月15日

ハーレムのエコノミー




Paris, mars 2008


 ぼくにはよきイスラム教徒が,休む間もなく戦わねばならぬ闘士に見える。しかし,かれもすぐに弱くなり,疲労困憊し,勝利を収めたはずの戦場で衰弱していく。いわば,自身の勝利に埋もれてしまうのだ。〔…〕この衰退の状態にあの多数の女たちがわれわれを陥れるのだ。彼女たちはわたしたちを満足させることよりも,疲労困憊させることに向いている。あれだけ見事なハーレムがありながら,ほんのわずかの子どもたちしか生まれないのは,われわれにはごく普通のことだ。しかも大抵の場合,子どもたちは弱々しく,五体満足ではない。
 それだけではない。彼女たちは禁欲生活を強いられているので,見張りの人間が必要だ。彼らは宦奴でなければならない。宗教,嫉妬,理性の観点からして,他のタイプの人間を近づけることは無理だ。宦奴は沢山いる。女たちが互いに繰り広げる交戦状態のなかで平穏を維持するために,そして外からの誘惑を阻止するために。つまり10人の妻,あるいは妾を抱える男にはすくなくともそれと同じ数の宦奴が必要だ。しかし,生まれながらに死んだ男たちは,社会にとってなんたる損失だろう!多大な人口損失が起こらないはずがない!
 ハーレムで宦奴とともに沢山の女たちに仕える娘奴隷たちも,哀しいことに処女のまま年老いて行く。ハーレムにいるあいだ,娘奴隷たち結婚はできない。しかも,娘奴隷の世話になれた女たちは,決してその娘を手放そうとはしないだろう。
 こうして自分ひとりの快楽のために,これほど多くの男と女をつかう主人は彼ら,彼女たちを国家のために無駄死にさせ,種の繁栄に役立たずにしてしまうのだ。


モンテスキュー『ペルシャ人の手紙』
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Posted by Nomade at 11:08Comments(0)

2012年02月13日

誘惑の倫理




Tokyo, juillet 2009


なに,お前〔=スガナレル〕 は最初に出来た女といつまでもくっついていろ,その女のために世間と縁を切れ,ほかの誰にも目をくれるな,と,こう言うんだな?女房孝行なんて愚にもつかぬ名誉を鼻にかけ,ひとつの恋を後生大事に老いさらばえ,若いうちからほかの見とれるような別嬪たちに目をつぶっていようとは,いやはや結構な了見さね!まっぴらごめんだ。惚れ抜くなんて芸当は,ばか者だけに任せておくさ。美しい女はみんなおれたちをとりこにする権利があるんだ。最初に出会ったのを笠に着て,ほかの女たちが男の心をとらえようとする無理からぬ望みを断ち切るって法があるものか。おれは,美しい女を見たら最後,ぞっこんまいってしまう。女が男を引きつける心地よい暴力の前には,手もなく丸められてしまうものだ。〔…〕要するに,恋心のきざし始めというものは,えも言われぬ魅力があるものだし,総じて恋愛の楽しみは,移り変わる中にあるものとも言える。口説の限りをつくして,若い女の心をなびかせてゆく。日一日とすこしずつ効き目のほどを見とどける。熱情や,涙や,ため息で,嫌がって降参せぬあどけない清らかな魂を攻め落とす,かよわい抵抗のことごとくを,一歩一歩と打ち破る。操大事と気をもむのをおさえつけ,思いどおりのところへ女をそっと連れてくる。これほどの楽しみはほかじゃめったに味わえない。ひとたび手に入れた最後,もう文句も希望もあったものじゃない。美しい情熱は跡形もなく消え去って,こうした恋の静けさについうとうと眠りこむ。新しい美しい女があらわれて,こちらの情欲をかき起こし,ものにせずにはいられない魅力で誘いの水をかけてくれない限りはだ。ともかくさ,美しい女が抗らうのをなびかせる,こんな気持のいいことはない。その点,おれは征服者の野心を持っている,絶えず勝利から勝利へと突き進み,希望に限りをつけることができないのだ。おれの情欲が燃え出したら,なにを持ってこようが消し止められたものじゃない。おれは地上のことごとくを愛したいような気がする。おれの恋の征服をひろげるには,アレクサンダー大王と同様,別の世界があって欲しいと願わずにはいられない。


モリエール『ドン・ジュアン』(第1幕第1場)
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タグ :モリエール


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2012年02月09日

孤独




Kagoshima, octobre 2009


 ソファに戻ってすわると,熱いお茶が出た。
 ほとんど初めての家で,今まであまり会ったことのない人と向かい合っていたら,なんだがすごく天涯孤独な気持になった。
 雨に覆われた夜景が闇ににじんでゆく大きなガラス,に映る自分と目が合う。
 世の中に,この私に近い血の者はいないし,どこへ行ってなにをするのも可能だなんてとても豪快だった。
 こんなに世界がぐんと広くて,闇はこんなにも暗くて,その果てしない面白さと淋しさに私は最近初めてこの手でこの目で触れたのだ。今まで,片目をつぶって世の中を見てたんだわと,と私は,思う。


吉本ばなな「キッチン」in『キッチン』

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タグ :吉本ばなな


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