2012年03月13日
石棺

Tokyo, avril 2009
こんなにたくさんの石棺があるのに,どれ一つとして同じ大きなのものはない。これくらいの大きさなら自分は入れるだろうか,知らず知らずのうちにそういう目で石棺の長さを測っている。できるなら,あまり窮屈でない方がいい。深さもゆとりがあって,胸の上で両手を組んだ時,肘が側面に当たらないくらいの幅もあった方がいい。けれど大きすぎるのは困る。僕の体を覆うのに見合うだけの暗闇があれば,それで十分だ。もし底に雨水が溜まっていなかったら,自分に一番ふさわしいと思える石棺に,僕は本当に横たわってみたかもしれない。
小川洋子『ブラフマンの埋葬』
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2012年03月12日
私は行きます

Kumamoto, avril 2009
私はもうここにはいられない。刻々と足を進める。それは止めることのできない時間の流れだから,仕方ない。私は行きます。
ひとつのキャラバンが終わり,また次がはじまる。また会える人がいる。二度と会えない人もいる。いつの間にか去る人,すれ違うだけの人。私はあいさつを交わしながら,どんどん澄んでゆくような気がします。流れる川を見つめながら,生きねばなりません。
あの幼い私の面影だけが,いつもあなたのそばにいることを,切に祈る。
手を振ってくれて,ありがとう。何度も,何度も手を振ってくれたこと,ありがとう。
吉本ばなな「ムーンライト・シャドウ」in『キッチン』
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2012年03月07日
決まった道

Bordeaux, septembre 2007
人はみんな,道はたくさんあって,自分で選ぶことができると思っている。選ぶ瞬間を夢見ている,と言ったほうが近いのかもしれない。私も,そうだった。しかし今,知った。はっきり言葉にして知ったのだ。決して運命論的な意味ではなくて,道はいつも決まっている。毎日の呼吸が,まなざしが,くりかえす日々が自然と決めてしまうのだ。そして人によってはうやって,気づくとまるで当然のことのように見知らぬ土地の屋根の水たまりの中で真冬に,カツ丼と共に夜空を見上げて寝ころがざるをえなくなる。
吉本ばなな「満月ーーキッチン2」in『キッチン』
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