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Posted by チェスト at

2011年06月30日

今日日の学生




Lyon, mai 2009


学生ほど,今日,無智なものはない。つくづく,いやになってしまう。授業がはじまる迄は,子供のおもちゃの紙飛行機をぶっつけ合ったり,すげえすげえ,とくだらぬことに驚き合ったり,卑猥な身振りをしたり,それでいて,先生が来ると急にこそこそして,どんなつまらぬ講義でも,いかにも神妙に拝聴しているという始末。そうして学校がすめば,さあ今日は銀座に出るぜ!などと生きかえったみたいに得意になって騒ぎたてる。けさも教室でひとしきり,ぎゃあぎゃあ大騒ぎだった。何事かと思ったら,昨晩,Kというクラスの色男が,恋人らしい女と一緒に銀座を歩いていたというのだ。それで,その色男が教室に入ってきたら,たちまち,ぎゃあぎゃあの騒ぎになったのである。あさましいというより他は無い。ひねこびた色気の,はきだめという感じである。みんなに野次られて顔を赤くしながも,それでもまんざらでもなさそうに,にやにやしているKもKだが,それを,やあやあと言って野次っている学生は,いったい,何のつもりなんだろう。わけがわからない。不潔だ!卑劣だ。ばかな騒ぎを見ているうちに,激しい憤怒が湧いて来た。


太宰治「正義と微笑」in『パンドラの匣』
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タグ :太宰治


Posted by Nomade at 22:28Comments(0)

2011年06月22日

乙女の言葉




Lyon, février 2011


 わたくしがグイスカルドを今まで愛してきたことや,今も愛していることは本当でございます。わたくしの命も長くはないでしょうが,わたくしは死ぬまであの方を愛します。もし死後も愛することができるなら,わたくしはあの人を愛することをやめないでしょう。だがわたくしをこうさせたのは,わたくしの女らしいもろさではなくて,お父さまがわたくしの結婚に気が進まなかったのと,あの方の徳がすぐれていたからでございます。タンクレーディお父さまは生身でいらっしゃって,お生みになった娘も生身であって,石や鉄でできているのではないことが,お父さまにはおわかりになっていなければいけなかったのです。お父さまは只今お年を召していらっしゃいましょうとも,青春の法則がどんなに多く,どんな種類のものであり,どんな力で襲ってくるものであるかを,思い出しにならければいけないのでございます。〔…〕ところでわたくしは,〔…〕生身でございますし,まだ若いので,世の中の経験もございません。で,この両方の理由によりまして,情欲にあふれております。〔…〕そうした力に,〔…〕わたくしは,我慢ができなくなりまして,その力にひかれるままについていくようになって,恋に落ちたのでございます。もちろんこのことにつきまして,わたくしは自然に過失に自分が落ちたことについて,お父さまや,自分自身に対して,できるかぎり恥にならないようにしたいと全力を尽くしました。そのことについて,憐れみ深い愛と,慈しみ深い運命が,わたくしのために極く秘密な途をお見つけになり,お示しになられましたので,その途によって,だれにも気づかれずに,わたしくしは自分の欲望に達しました。〔…〕わたくしは,多くの女がするように,グイスカルドを気まぐれに選んだのではございませんで,こうと決めた考えから,誰よりもあの人を選びました。そして分別ある考えのもとに,あの人を自分のところに呼び込んだのでございまして,わたくしは,自分や,あの方の賢明な辛抱によって,自分の夢を長く楽しんでまいりました。(第四日第一話)


ボッカチョ『デカメロン』
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Posted by Nomade at 22:22Comments(0)

2011年06月17日

日本一美しく,感動的な文章




Tokyo, juillet 2009


 日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由のもたらす惠澤を確保し、政府の行爲によつて再び戰爭の慘禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本國民は、恒久の平和を念願し、人間相互の關係を支配する崇高な理想を深く自覺するのであつて、平和を愛する諸國民の公正と信義に信賴して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、專制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際社會において、名譽ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。
 われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであつて、政治道德の法則は、普遍的なものであり、この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。
 日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。


「日本国憲法:前文」
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タグ :日本国憲法


Posted by Nomade at 22:28Comments(4)

2011年06月09日

そんなに美しい彼女は見たことがありませんでした




Kagoshima, juin 2009


 カルメンは〔…〕私たちに二人だけになるやいなや,ワニみたいなすさまじい笑いを爆発させて,私の首っ玉に飛びつきました。そんなに美しい彼女は見たことがありませんでした。マドンナみたい着飾って,香水を匂わせて〔…〕そして踊りはじめ,かと思うとスカートの裾飾りを引きちぎるのです。どんなサルだってこれほど跳ね回ったり,百面相をしたり,ふざけちらしたりそたことなんかありますまい。


プロスペール・メリメ「カルメン」in『カルメン』
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Posted by Nomade at 22:23Comments(0)

2011年06月07日

倦怠期の妻とその夫





Kagoshima, mai 2009


牛眼のヘレは,アイギス持つゼウスの心を騙すにはどうしたものかと思案した末,これぞ最上の策と思いついたのは,我が身に化粧を凝らしてイデの山に出向くこと,さすればゼウスが愛欲の念に駆られ,肌を寄せて沿臥しする気を起こすかもれ知れぬ,その時は彼の瞼とあの抜け目ない心に,温かく安らかな眠りを振りかけてやれるかも知れぬ[…]。
 雲集めるゼウスは[ヘレの]姿を[…]見るや否やたちまち恋慕の情がその思慮深い心を絡めとってしまった−−二人が両親の眼を盗んで一つ床に入り,はじめて抱き合ったその時のように。彼女の前に立つと優しく声をかけていうには,[…]
「ヘレよ,[…]さあ,われらはここで臥せって愛の喜びを味おうではないか,相手が女神であれ,人間の女であれ,愛しく思う心が胸に絡みついて,これほどまでどうにもならぬ気持にさせられたことはかつてなかった。[…]
 企みを胸に秘めた女神ヘレが答えていうには,
「[…]どうでも閨事がしたいとお望みなのですから,そこへ行って休むことにいたしましょう。」


ホメロス『イリアス』
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タグ :ホメロス


Posted by Nomade at 23:15Comments(0)