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Posted by チェスト at

2009年04月30日

かあさん おげんきですか(続き)




Bordeaux, septembre 2007

書簡続き

かあさん
おげんきですか どんなことがあっても表に出てはいけません
近頃 取締が厳重になったのです
品川の倉庫にたったひとり一人おとながかくれているという密告だけでも一個小隊が機関銃をもって出動するのです
それからかあさん
例のパルチザン放送での「子守唄運動」などは止めた方がいいと思います。
ぼくらは もう赤とんぼの歌や子守唄をきいても童心をとりもどすことはありません「よかりし幼年時代」もやすらかな母の愛もむだです
とにかくなにもせずにかくれてください
それから法律が変わって
長ぐつをはかない猫はすべて屠殺されることになりましたので
月夜に
ニャーニャを表に出さないようにしてください 皇帝は猫のステーキが
すきなのだそうです

寺山修司「映画 トマトケチャップ皇帝」in『寺山修司詩集』
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タグ :寺山修司


Posted by Nomade at 21:31Comments(0)

2009年04月29日

伝令




Rochefort, septembre 2008

伝令はくりかえす。

《よき土石を加工し,
《なにごとにも死者の憎しみに協和せよ


稲川方人「(三百の火を三百の雫で消しながら)」in『稲川方人詩集』
  
タグ :稲川方人


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2009年04月24日




Amami, octobre 2008

「石」

どこへいつても,石よ
君がころがつていない所はない。
青い扁豆,丸い砂礫。
どれも初対面ではなささうな。

土ぼこりで白い雑草の根方,
電柱や道標の周りに,垣添いに,
車輪に砕かれ,荷馬の蹄に(ひづめ)にはじかれ,
靴底にふまれ,下駄にかつとばされ,

だが,誰もこころに止めないのだ。
君を邪険にあつかつたこと,君がゐることさへも。
たまさか,君を拾ひあげるものがあつても,
それは,気まぐれに遠くへ投げるためだ。

君のやうなもののことを,支那では,
黎民(れいみん)と呼び,黔首と名づけた。
石よ。君は,黙々として,
世紀から世紀へ,何を待ってゐる?
君が見てゐるのは,どつちの方角だ?
石は答へない。だが,私は知つてゐる。
この地上からがらくたいつさいが亡びた一番あとまで,
のこつてゐるのが君だといふことを。

金子光晴「石」in『金子光晴詩集』(『大腐爛頌』)
  
タグ :金子光晴


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2009年04月23日

美しい忘恩




ほおばりがたい愁の飴がとぎれるころ,清楚な固形ツルファンの盆地にながれつく。故旧のこまものは音をひそめ,原野はいま,すっきりとおくまった空箱のような休息にある。

子どもたちは明るい伸縮をみせてかけまわっている。鞠はそのてのひらに休憩の風をくっつけてくる。頬の生地は,それからしばらく甘い蒼空にぬれつづける。

遠くでは一人の女の死を告げている。葡萄をこわす仕草で,ひえすぎたなきがらが末(うら)むらさきに裂かれている。快活なほろびのまわりこむものたち。いまだかつて地形が,過剰な血を流すことはなかったのだ。

わたしは文明のさむしろで,みるはずの夢をことごとくさそいだす。すぼみこむ暦を錐のようにすくめてからも,眼はまだ沼のようにともしておく。地図のしわをのばし,わたしは,ひとときの稜線のふるえをさすってみる。

外は札のように明るい。途すがらつたえるものは,ただとおくにある。鞠は日めくりのようにかるくその皮膚をのがれ,まるいはだかの風となり,美しい忘恩のようにとけていく。

荒川洋治「高所の鞠」in『荒川洋治詩集』
  
タグ :荒川洋治


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2009年04月22日

すべてが彼を欲していた。ごまかしようがなかった。


Kokubu, mars 2009

「そこへ腰掛けて,鍵盤に指をのせれば,すぐに音が出てくるわ。この,あなたの指を...」
 私は彼の左手を握った。本当の願いは,このままいつまでもこうしていることだった。なのに言葉では,わたしではなくチェンバロに触れてほしいと繰り返している。しかしそこにも矛盾などなかった。皮膚も血液も舌も鼓膜も,すべてが彼を欲していた。それはごまかしようながなかった。
 私たちは唇を合わせた。再び毛布が床に落ちた。いすががたがた動いた。静かな口づけだった。互いのまぶたの裏に広がる暗闇を,そっと温め合うような口づけだった。
 彼はわたしが望むとおりのことをしてくれた。凍りついた歓びを一つ一つ呼びさましてくれた。服を脱ぐ間も,毛布に横たわる時も,一瞬も私たちは身体を離さなかった。怯えているのかと思うほど優しく,彼の指は動いた。鍵盤にふれるかわりに,それはわたしの身体をなぞった。チェンバロがすべてを見ていた。

小川洋子『やさしい訴え』
  
タグ :小川洋子


Posted by Nomade at 22:49Comments(0)

2009年04月21日

すきになり始めている




Kagoshima, avril 2008

「はじまり」

地下鉄の階段を一段ずつのぼると
そとは まぎれもない四月だった

視力が計れないほど微量に回復している

ハイヒールのつま先を丸くして
ことしも春があたたまった

信号を待っていると
つるんとした紺色の新入社員が
ぞろぞろと歩いてくる
どのひともみんな
あごの骨の柔らかそうな顔
<ちがうしつもんをしてみよ>

みどりと光がこまかくちぎれて
ちょうど 町が点描法で仕上がっていたころのようだ

<あなたのこえがすきです>

きのう 突然 脈絡もなく
夢に現れた男は
先へいくほど尖った神経質な指をもってた

木のようなひとね

なぜだろう
かれにとらわれながら
一日をすごしてしまう

きっと
すきになり始めている

小池昌代「はじまり」in『小池昌代詩集』(『水の町から歩きだして』)
  
タグ :小池昌代


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2009年04月20日

大人になろうとする心を忘れ給え




Osaka, février 2009

 日本のナンセンス文学は,涙を飛躍しなければならない。「莫迦莫迦しさ」を歌い初めてもいい時期だ。勇敢に屋根へ這い登れ!竹竿を振り回し給え。観衆の涙に媚び給うな。彼等から,それは芸術ではない,ファースであると嘲笑されることを欣快とし給え。しかしひねくれた道化者になり給うな。寄席芸人の卑屈さを学び給うな。わずかな衒学をふりかざして,「笑う君達を省みよ」と言い給うな。見給え。竹竿を振り回す莫迦が,「汝等を見よ!」と叫んだとすれば,おかしいではないか。それは君自身をあさましくするだけである。すべからく「大人」になろうとする心を忘れ給え。

坂口安吾「ピエロ伝道者」
  
タグ :坂口安吾


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2009年04月17日

他人の関係




Orly, mars 2008

「他人の関係」
逢う時にはいつでも 他人の二人
ゆうべはゆうべ そして今夜は今夜
くすぐるような指で
ほくろの数も一から数え直して
そうよ はじめての顔でおたがいに 
またも燃えるの

愛したあとおたがい 他人の二人
あなたはあなた そして私はわたし
大人同士の恋は 小鳥のように
いつでも自由でいたいわ
そして愛し合う 時に何もかも
うばいあうのよ

逢う時には いつでも他人の二人
気ままと気まま そして大人と大人
逢うたびいつも ちがう口づけをして
おどろきあう その気分
そうよ はじめての顔で
おたがいに またも燃えるの

愛したあとおたがい 他人の二人
男と女 そして一人とひとり
あなたは私のこと 忘れていいは
迷ってきても いいのよ
私何度でも きっと引きもどす
もどしてみせる

有馬三恵子「他人の関係」
  
タグ :有馬三恵子


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2009年04月16日

今のわたし




Kyoto, février 2009

「たとえどんなに優しくしてくれたとしても,それをありのままに受け入れることができなくなったの。食事の時,ちょっと離れたところにあるドレッシングを取ってくれるとか,髪の毛についたごみを払ってくれるとか,そんな小さな優しさでさえね。同じことをあの人にもしてあげてるに違いない。そう考えてしまうの。彼の指や胸や唇があの人のためだけに使われている場面を想像して,勝手に苦しんだわ。あなたはさっき妄想と言ったけれど,自分にこれほど鮮明な想像力があるなんて,思いもしなかった。息づかい,影,匂い,温度,何もかもがありありと浮かんできた。自分が経験したよりもなまめかしくね」
 女は黙ってうつむいたままだった。
 本当はそんなことはもうどうでもよかった。夫がもたらした苦しみなど,今のわたしには無意味だった。

小川洋子『やさしい訴え』
  
タグ :小川洋子


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2009年04月14日

極度の情熱




Cenon, mars 2008

こげ具合を言いうる者は弱い火に焼かれているものだ。

と恋人とたちは言って,堪えがたい恋の焔をこう表現しようとする。

恋はあわれな私からすべての感覚を奪った。なぜなら,レスビアよ,私はおまえに会うと,とたんに理性を失い,言うべき言葉も知らず,舌はもつれ,えも言われぬ火が五体に拡がり,耳は鳴り,目は闇に閉ざされるからだ。

 このように激しく焼けつくような興奮のさなかにあるときは,悲嘆や口説きを十分に拡げてみせるのには適しないのである。そのとき,精神は深い物思いに悩み,肉体は恋にひしがれやつれているからだ。
 そういうわけで,ときどき偶然に,突拍子もないときに,恋人たちが気絶したり,極度の情熱のあまり,喜びの最中にさえ無感覚に襲われたりすることがある,味わったり,消化したりできる情熱はすべて平凡なものでしかない。
軽い悲しみは語り,深い悲しみは沈黙する。

[...]
 私はこういう激しい感情にはとらえられない。私は生まれつき血のめぐりが鈍い。そしてそれを毎日理性によって硬くし,厚くしている。

モンテーニュ「悲しみについて」in 『エセー』
  


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2009年04月13日

顳顬(こめかみ)


Bordeaux, mars 2008

「顳顬(こめかみ)」

こめかみの裏側に
折りたたまれて しまわれている地図
不眠の夜
ひろげてもひろげても まだたたまれている部分があって
どうやらそこには
夢の都がしるされているらしいのだが

とほうもなくひろがるのは
痩せた土地や 船影もない荒磯(ありそ)ばかり
花も咲かず 鳥も飛ばず
こんなさびしい風景は
この世のとこにも見あたらない

誰も はいりこめない
誰をも 誘い入れられない
ひとりで歩むほかよりない いくすじかの径(みち)に
時として 稲妻のよう 痛みがはしり
こめかみに青く 透けて見える

新川和江「顳顬(こめかみ)」in『新川和江詩集』
  
タグ :新川和江


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2009年04月10日

生殖II




Hiypshi, juillet 2008

「生殖II」

ほっとして
腹と卵をながめた
(まあ!)
微笑みがむずがゆくわきあがつてくる
睡蓮が映っている
ーーキレイ キレイ
ーー男たちのぐりりぐりり
水かきはすべつちやつて
目高は泡に眼くるまつた
からつぽの腹によろこびがいたい

泳ぎつかれて 水をぬけると
蒼空が
つるり眼にすべつた

草野心平「生殖II」in『第百階級』(『草野心平詩集』)
  
タグ :草野心平


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2009年04月09日

人生のひろがり




Cenon, mars 2008

 人生のひろがりがいかに大きいかは,次のことからも知れる。人類は,およそ考えられるかぎりの太古から,弁舌であふれていること,しかも他方,この弁舌が可能なのは,嘘をつこうとする時であること。

カフカ「断片:ノートおよびルーズリーフから」in『カフカ全集第3巻』/飛鷹節訳
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タグ :カフカ


Posted by Nomade at 23:10Comments(0)

2009年04月08日

嫉妬




Kyoto, février 2009

「彼が帰ってこない夜,車の音がするたびにびくっとしてた。どんなに遠くからでも,夫の車のエンジン音を聞き分けられるようになったわ。よく自分に賭けをしたの。五台数えるうちに帰ってきたら,笑顔で迎えてあげよう。お風呂の用意をしてあげよう。六台過ぎたら……その先は考えなかった。六台過ぎたらまた新しい賭けをするのよ。五台のうちに帰ってきたら,理由は聞かないでおこう。許してあげよう。その繰り返し」
 嫉妬の話などするつもりはなかったのに,気がつくと自分でも忘れていた昔のことを口に出していた。女は辛そうにも申し訳なさそうにもせず,ただハンカチを畳み直しただけだった。彼女は勝ち誇った気持ちでいるのだろうか。目の前にいる妻ではなく,自分の方が選ばれたのだという事実を,かみしめているのだろうか。
 しかし話しながらわたしの心の中は,新田氏で占められていた。夫を借りて薫さんへの嫉妬を語っているのだと,自分で分かった。

小川洋子『やさしい訴え』
  
タグ :小川洋子


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2009年04月07日

ピカピカの一年生たちへ...




Kagoshima, novembre 2007

「寓話」

 むかしむかし
 あるところにお父さんとお母さんがありました お父さんは小学校の先生で
 お母さんは吸血鬼でした。
 ふたりにはほんとの子どもがなかったので
 他所の子どもを集めては「ヘンゼルとグレーテル」の寓話を読んであげたあとで
 やつざきにして
 ぐらぐら煮えたぎった肉鍋に入れて
 煮て食べてしまうのです
 だから
 学校なんかへ行っちゃいけません
 こわい狼が
 黒板をかがみにして どの子を食べようかと舌なめずりをして待っているのですよ

寺山修司「トマトケチャップ皇帝」in『寺山修司詩集』

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タグ :寺山修司


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2009年04月06日

少年の頃




Amami, octobre 2008

 少年の頃,化石ハンマーを持って一日中山を歩きまわり,手にした水成岩を一撃して,まっぷたつに割れたその中心に巨大なウニの化石を発見したときの感激,それがぼくにはいまだに謎だ。以来ぼくは,あの奇蹟を求めて,すべてを化石のように掌にのせてハンマーで割ろうとしてきたのか。唯一の正義がその行為にあるかのように,そこに輝く中心があるかのよう...... 世界を掌にのせて言葉の剣で斬る,それがぼくの希望の発生点とでもいおうか。いまだにぼくの掌のいっぱいにひろがったウニの化石の感触が,もっとも純粋で狂暴な一瞬に立会った思い出とともによみがえってくる。
 〔...〕無数の岩石を割らなければならない,全世界が瓦礫の山になろうとも。

吉増剛造「中心志向:透谷その他」in『吉増剛造詩集』
  
タグ :吉増剛造


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2009年04月03日

花の色は...




Kokubu, mars 2008

小野小町

花の色はうつりにけりな いたづらに 我が身世にふるながめせしまに

『古今和歌集』/ 佐伯梅友校注
  


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2009年04月02日

やさしいキスをして




Bordeaux, mars 2008

あなたの一日が終わる時に そばにいるね
何も言わないで やさしいキスをして

そっと髪を撫でて 肩を抱いて そばにいるね
あなたが眠るまで やさしいキスをして

電話してくれたら 走っていくから すぐに行くから
なにもかも放り出して 息を切らし 指を冷やし すぐ会いにいくから

報われなくても 結ばれなくても
あなたは
ただ一人の 運命の人

今日という一日が終わる時に そばにいられたら
明日なんていらない
髪を撫でて 肩を抱いて あなたが眠るまで

この出会いに やさしいキスを これが運命なら

吉田美和「やさしいキスをして」
  
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2009年04月01日

激しい恋愛




Bordeaux, mars 2008

 私はできるだけ感情の動きを悟られないよう,テラスに集まっている小鳥たちに視線を移した。彼らは細い手すりの上を器用にジャンプし,くちばしであちこちをつついて回った。
 激しい恋愛があったのだ,とわたしは思った。妻のある男を手に入れるために,彼女は自分の生活をゼロからやり直した。〔...〕その間わたしは何も知らず,きれいなアルファベットを描いていた。
 不思議と腹は立たなかった。夫も彼女もぼんやりかすんで現実味がなかった。夫と知りあった頃,わたしはその激しい恋愛というものをしただろうか。したような気もする。約束の場所で彼を待つ十数分間が,一番幸せな時間だった。街を歩く時,偶然手が触れただけで胸が高鳴った。だからハンドバッグはいつも,彼のいる反対側の手で持った。電話がかかってきそうな夜は,決してドライヤーを使わなかった。
 でもそれが,何になったというのだろう。何にもならなかった。

小川洋子『やさしい訴え』
  
タグ :小川洋子


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