2009年04月21日
すきになり始めている

Kagoshima, avril 2008
「はじまり」
地下鉄の階段を一段ずつのぼると
そとは まぎれもない四月だった
視力が計れないほど微量に回復している
ハイヒールのつま先を丸くして
ことしも春があたたまった
信号を待っていると
つるんとした紺色の新入社員が
ぞろぞろと歩いてくる
どのひともみんな
あごの骨の柔らかそうな顔
<ちがうしつもんをしてみよ>
みどりと光がこまかくちぎれて
ちょうど 町が点描法で仕上がっていたころのようだ
<あなたのこえがすきです>
きのう 突然 脈絡もなく
夢に現れた男は
先へいくほど尖った神経質な指をもってた
木のようなひとね
なぜだろう
かれにとらわれながら
一日をすごしてしまう
きっと
すきになり始めている
小池昌代「はじまり」in『小池昌代詩集』(『水の町から歩きだして』)
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Posted by Nomade at
22:29
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