スポンサーサイト

上記の広告は90日以上記事の更新がないブログに表示されます。新しい記事を書くことで、こちらの広告が消せます。

  

Posted by チェスト at

2010年05月23日

全力疾走




Lyon, mars 2010


「エッシャーって知ってる」〔…〕
「絵描きだろ。あの騙し絵のようなやつを描く人だ」
「そう。版画家の。彼はさ,ラスコーの壁画を見て,面白いことを悟るんだ」
「版画家が悟るか」
「『造形芸術は進化しない』って」
「進化しない?」
「人類は様々なことで,進化,発達をしてきただろ。科学も機械もね。先人の教えや成果を学んで,それをさらに発展させてきた。でもね,芸術は違う,エッシャーはそう言ったんだよ」
「芸術がどう違うんだ」
「どんな時代でも,想像力というのは先人から引き継ぐものじゃなくて,毎回毎回,芸術家が必死になって搾り出さなくてはいけないってことだよ。だから,芸術は進化するものではないんだ。十年前に比べてパソコンも電話も遥かに便利になった。進化したと言ってもいい。でも,百年前の芸術に比べて,今の芸術が素晴らしくなっているかと言えば,そうじゃない。科学みたいに業績を積み上げていくのとは違ってさ,芸術はそのたびに全力疾走をしなくてはいけないんだ。だから」
「だから?」
「一万七千年前のラスコーの洞窟に壁画を描いたホモ・サピエンスも,二十一世紀の地下道に落書きをする俺も,同じくらい苦労して想像力を働かせているってことだよ。エッシャーは壁画を見て,それを悟った」

伊坂幸太郎『重力ピエロ』
  
タグ :伊坂幸太郎


Posted by Nomade at 15:27Comments(2)

2010年05月18日

あの人の匂い




Yamato, mai 2009


さつきまつ花たちばなの香をかげば,昔の人の袖の香ぞする


よみ人知らず『古今和歌集』
  


Posted by Nomade at 16:35Comments(0)

2010年05月14日

このところ怒りっぽくなった




Lyon, mars 2010


「叶えてやろうじゃないか」

このところ怒りっぽくなった
雨という予報なのに
晴れてしまう時のようなわけのなさだが
景色
あわよくば
気色で生きようとみずからをはじめたのだ
昔から知能指数が低い(一〇八)のに
短気で
家もないのに家を飛び出したり
テーマもないのにこうして詩を書いたりで
あげくには朗々と
生きてみたり……
芸術家小説のサブ・ノートの罫にひっかかっているみたいだ
もちろん引っかけたのは自分
喩えとしては
これでも弱い
弱いなあ
「夢中で飛び出し」
と今,テレビがしゃべった
叶えてやろうじゃないか
丁目をまたぐくらいの
飛び出しは

さびしさだ
もうもうとしたさびしさ
家出が横断歩道をわたる
小学生ほどもこの町を知らない


荒川洋治『荒川洋治詩集』(『あたらしいぞわたしは』)
  
タグ :荒川洋治


Posted by Nomade at 12:48Comments(0)

2010年05月09日

小鳥と小枝




Kagoshima, novembre 2009


「残照」

わたしのたましいはさすらいつづけていました
そしてあなたという枝にとまった
おお あなた
ゆうぐれの空にみつけた あなたという木
ゆすらないでください
しばらくじっと
だれかにかかれた絵のようにしていらしてください
さすらいのはてに
はじめてはねをやすめたことりが
かたがわだけでも わずかにぬくめられようと
しずみかけた陽に
いのりの目をとじているのを
なにかうたえ なにかさえずれなどと
あついじゅえきをふきあげないでください
さまよいのさがをくびれぬ
つみふかいことりのために
ひとときの せいじゃくとひかりをください
おお あなた
たましいがとまれるほどの
やさしくほそい小枝をおもちの あなたという木


新川和江「残照」in『新川和江詩集』(『比喩ではなく』)
  
タグ :新川和江


Posted by Nomade at 11:26Comments(0)