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Posted by チェスト at

2009年06月30日

わかれたひとのからだ




Paris, mars 2008

わかれたひとのからだが
いまなつかしさとなってまとまり
わたしから紅くおりる
こころのことで
もう泣きはらすことはないだろう

荒川洋治「われものに指を入れる」(抜粋」in『荒川洋治詩集』(『鎮西』)
  
タグ :荒川洋治


Posted by Nomade at 22:19Comments(0)

2009年06月29日

言葉の絶滅を計るもの




Tokyo, avril 2009

「落下体」

私の精神にある,言葉の絶滅を計るもの
藤の花房ふりかざして
闇に棲む女の肌を鞭打つ
一人の黄金の王の存在!

また
こうもいえよう
一個の生命が発見したかけがえのない不信
「砂漠はどこからはじまるか」という問の存在………

古い本能を透視する頭脳の塔よ!
沈黙は不可不沈黙は不可
ただ不幸を粉砕する毒蛇のうねりが
道ははるか
燃える綱となって上昇する

ああ
「泉の正義」−−立ち入るな!
契約はかわそう だれとでも
しかし 絶対的回避 これが運命だ
水田・沃地に言葉を建てるって?
大砲だ!
金銭出納簿
言語
記憶(この邪悪な財宝!)

けれども
なんという気弱なことだ
さざ波たつこの鏡面を滑走しつつ
投影された夢の指環を求め
豊かな乳房に吊られた甲骨文字を
一瞬つかみとろうとして
火につつまれる
落下体よ!

吉増剛造「落下体」in『続・吉増剛造詩集』(『黄金詩編』)
  
タグ :吉増剛造


Posted by Nomade at 23:31Comments(0)

2009年06月26日

本能(椎名林檎)




Paris, mars 2008

「本能」

約束は要らないわ 
果たされないことなど大嫌いなの
ずっと繋がれて居たいわ 
朝が来ない窓辺を求めているの

どうして歴史上に言葉が生まれたのか
太陽 酸素 海 風
もう充分だった筈でしょう

寂しいのはお互い様で
正しく舐め合う傷は誰も何も咎められない
紐解いて生命に擬う

気紛れを許して 
今更なんて思わずに急かしてよ
もっと中迄入って 
あたしの衝動を突き動かしてよ

全部どうでもいいと云っていたい様な月の灯
劣等感 カテゴライズ
そういうの忘れてみましょう

終わりにはどうせ独りだし
この際虚の真実を押し通して絶えてゆくが良い

鋭い其の目線が好き

約束は要らないわ 
果たされないことなど大嫌いなの
ずっと繋がれて居たいわ 
朝が来ない窓辺を求めているの

気紛れを許して 
今更なんて思わずに急かしてよ
もっと中迄入って 
あたしの衝動を突き動かしてよ

椎名林檎「本能」
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Posted by Nomade at 21:34Comments(0)

2009年06月25日




Kagoshima, juin 2009

この世に瞳のあるかぎり夢から夢と夢は生み夢は生まれ。殺意や敗血の底でも人は死なない人は歌ふ。

草野心平「瞳」(抜粋)in『草野心平詩集』(『絶景』)
  
タグ :草野心平


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2009年06月24日

水の雑音




Kagoshima, février 2009

大歓喜か。又は大悲歎であるか。
おゝ 森閑たる白日,水の雑音の寂寞!!!
  …………………………。
黄い揚子江の濁流の天に氾濫するのをきけ。

金子光晴「鱶沈む:黄浦江に寄す」(抜粋)in『金子光晴詩集』(『鱶沈む』)
  
タグ :金子光晴


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2009年06月23日

書簡(続き)




Bordeaux, septembre 2007

書簡(続き)

かあさん
おげんきですか
これがさいごのてがみになるでしょう
あした黒旗党がおかあさんを
つかまえにゆくことになりました
おかねほしさに密告した親不孝をおゆるしください
でもいつまでもかくれとうせるものでもないし,どうせ一緒にくらせるというわけでもないのです りっぱなぶつだんを買ってまいにち花をそなえます
しゃしんもかざっておきます
それから
うまくゆくときちがいびょういんに
いれてもらえるかもしれません
そうすると
しけいにならずにまいちにあそんでくらせるのです
きょうぼくは 皇帝といっしょにえっぺいしながら
かあさんも
きちがいならいいのになあ
とおもいました
かあさん では どうか
むだなていこうはやめてください
わるくおもわないでください
さようなら
寺山修司「映画 トマトケチャップ皇帝」in 『寺山修司詩集』
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タグ :寺山修司


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2009年06月22日

対岸に住むあなた!




Paris, mars 2008

「七本の川が流れる町」

七本の川が流れる町
洗濯物の乾きが早い
こどもがいつも走っている町

帰ってくる舟と
出ていく舟と
舳先の表情で選びながら
古びてしまった感情は
ばさばさと乾かしてしまおう

対岸に住むあなた!
封書に閉じ込めた川の末尾は
岩水のようなペーパーナイフで
あふれさせて
手紙をよむあなたの
ふせたまつげをつまんで
視線をあわせてみたいとおもう
急流を呼びこんでみたいとおもう

会いたいと思うと橋がかかる
わたす
わたされる
わたっていく
むこう岸をもたない
かかり続ける橋
けれど わたり終えた瞬間に
すいっと橋になってしまう橋
そんな橋がいくつか,かかる
ここは
川のある町

小池昌代「七本の川が流れる町」(『水の町から歩きだして』)in『小池昌代詩集』
  
タグ :小池昌代


Posted by Nomade at 21:41Comments(0)

2009年06月21日

心は正しい目標を欠くと,偽りの目標にはけ口を向けること




Paris, mars 2009

〔…〕景色を美しく見せるためには,茫漠たる空間の中に果てしなく拡がり放しにせず,適当な距離にそれを限定する枠が必要であるのと同じように,

ちょうど風が厚い森に行く手をさえぎられないと虚空に四散して力を失うように,

揺れ動いた心も何かにつかまるものを与えられないと自分の中で踏み迷う。だから,心はいつもぶつかって働きかける対象を与えられなければならない。プルタルコスは尾長猿や子犬を可愛がる人たちについて「われわれの中にある愛の器官が正しい目標を欠くと,空のままではいないで,このように偽りの,むなしい対象をつくり上げる」と言っている。

モンテーニュ『エセー』
  


Posted by Nomade at 23:43Comments(0)

2009年06月18日

トウシューズ




Kagoshima, mai 2008

 トウシューズに限らず,女の人の靴をこんなに近くで手に取って見るのは初めてだったので,妙に胸がどきどきした。女の人の足って,こんなにも小さいものなんだろうかと,僕は思った。半月前に分かれた恋人の足を思い出してみようとしたが,何も浮かんでこなかった。

小川洋子「アンジェリーナ」in『アンジェリーナ』
  
タグ :小川洋子


Posted by Nomade at 23:45Comments(0)

2009年06月17日

くれてやるこころの火




Paris, mars 2008

(石の音,かなしいでしょう)

(丘の墓地も,
(ハイウエイが横切りました,
(わたしの寿命も,
(とうにつきているはずです,
(水の映画を見ますか,
(喪服のない,
(実さんが哭いていますが,
(誰が悪いというのではありません,
(水の映画を見ますか,
(みつぎ橋を渡ると,
(石の音,かなしいでしょう,
(誰が悪いというのではありません,
(桃の木をゆすって,
(わたしを眠らないようにしてくれませんか,
(みつぎ橋を渡ると,
(石の音,かなしいでしょう,
(八重さんはどこにいますか,
(ここに座って,
(水の映画を見ますか,
(鬼火です,
(ほら,くれてやるこころの火です,

稲川方人「(石の音,かなしいでしょう)」(『われらを生かしめる者はどこか』)
in『稲川方人詩集』
  
タグ :稲川方人


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2009年06月16日

赤いスカートを穿けない男




Kagoshima, janvier 2009

オー マイ ダーリン かわいそうなひと
赤いスカートを穿けない男はひとりぼっち
ポケットだらけの重たい服着て
きょうもどこかへ出かけていく
あなたを見てると涙が出てくる

新川和江「オー マイ ダーリン」(抜粋)in『新川和江詩集』
  
タグ :新川和江


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2009年06月14日

ふたりの下肢




Tokyo, avril 2009

湧いてきた意思がようやくふたりの下肢をわける。わたしたちは二つの種別のへやへかえるのだ。肉が干いた少女の空きを,はじめての夜気がくぐる。でもからだの一部は,わたしとつれだったまま,まだ特殊にあつい。

荒川洋治「季節の暗い水をつかって」(抜粋)(『荒川洋治詩集 鎮西』)in『荒川洋治詩集』
  


Posted by Nomade at 15:12Comments(0)

2009年06月12日

つめたく煮つめられていく秘密




kagoshima, février 2009

「くだもの」

たとえばあの,さくりとして高貴な梨を
みずのなかでひやそう

器のなかでくいくいと
つめたく煮つめられていく秘密

はげしい自意識があるくせに
てのひらばかりに にぎられて
かたくなってまるまって
やさしいちからになっているあのこ

出来事でつまった内側を
表皮はけっして語らない
果肉のなかのすずしい午前
  (このひとでなければならないなんて
   そんなこと,たしかに幻想だった)

すっかり皮をむきおわれば
くさっていくよ と合図され
その,せとぎわに口を含む
食(は)めば笑いのようなくだもの

とおく,オクターヴで対話する
わたしとくだものの共鳴音
老いていくことについて

小池昌代「くだもの」(『水の町から歩きだして』)in『小池昌代詩集』
  


Posted by Nomade at 21:53Comments(0)

2009年06月11日

中産階級の情熱




Paris, mars 2008

 
〔...〕諸身分が混じり合い,特権が破壊されるとき,また家庭が分割され,知識と自由が広がるそのときには,よい暮らしを手にしたいという熱望が貧乏人の想いに生じ,これを失うことへの恐れが金持ちの心に現れる。ささやかな財産が無数につくられる。その所有者はその味を知るに足る物質的享楽を手にするが,これに満足するには十分でない。努力しなければ享楽を手にできず,不安に震えることなしに享楽にふけることがない。
 彼らはだからこのかけがえのない,しかしまたあまりにも不確かで逸しやすい楽しみを絶えず執拗に追い求め,保持しようとする。
 生まれの卑しさや財産の小ささを意識し,それによって行動を制約される人々に自然な情熱を探してみて,私は安楽を好む気持ち以上にぴったりするものを見出さない。物質的幸福を求める情熱は本質的に中産階級の情熱である。それはこの階級とともに増大し広がる。それはこの階級とともに圧倒的になる。この階級から発して上層身分をとらえ,民衆の中にまで下降する。

トクヴィル『アメリカのデモクラシー』/ 松本礼二訳
  


Posted by Nomade at 23:26Comments(0)

2009年06月09日

「汝のことをなし,汝自身を知れ」




Kagoshima, avril 2009

 「汝のことをなし,汝自身を知れ」という偉大な教訓はプラトンのなかにしばしば述べられている。この命題の二項は広くわれわれの義務のすべてを含み,各項が同じようにたがいに他の項を含んでいる。つまち,自分のことをしようとする者は,自分が何であり,自分の特質が何であるかを知ることが第一の務めだと知るであろう。また,自分を知る者は,もはや他人の仕事を自分の仕事とは考えずに,何よりも自分を愛し,自分を磨き,よけいな仕事や無益な思考や計画を拒む。《暗愚は欲望がかなえられても満足しないが,知恵は現にある者で満足し,けっして自己に不満を持たない。》

モンテーニュ『エセー』/ 原二郎訳
  


Posted by Nomade at 23:37Comments(0)

2009年06月08日

名も知れぬ自己




Kirishima, février 2009

(麦芽のころ)

こんなに
名も知れぬ自己は多く在るから
火の見櫓の下で降り
あとは
忘れた道を歩くよりほかない

稲川方人「(麦芽のころ)」in『稲川方人詩集』(『われらを生かしめる者はどこか』)
  
タグ :稲川方人


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2009年06月04日

母の愛




Kagoshima, février 2009

「子供の頃,工作がお好きだったんはありません?」
「通信簿の点は,音楽よりもよかった」
「本当に?」
「がらくたを集めてきて,何かを作ることの方が,ピアノのレッスンよりずっと楽しかった。でも母親から,カッターやかなづちを使うのを禁止されていたんです。指をけがしちゃいけないからってね。風呂から出ると,母親が手をマッサージするんです。関節が柔らかくなりますように,指が長くのびますようにって,まじあにをかけるみたいに。くすぐったくて,たまらなく嫌だった」
「大事に育てられたんですね」
「ピアノすべてに最優先されたんです。嫌いなトマトを食べるのも,本を読むのも,乾布摩擦で身体を鍛えるのも,全部ピアノのため。ピアノのためにならないことには,意味がなかった。でも僕は母親に隠れて,秘密の工房を持っていたんですよ。近所の空き地にあった,防空壕の跡にね。木の枝やら,古釘やら,空缶やらをため込んで,ロボット,飛行機,動物,武器,何でもかんでも作って一人で遊んでいた。ところがある時母親に見つかって,作品は全部川に投げ捨てられてしまったんです。一個一個作品が落ちてゆく,ポチャン,ポチャンっていう音を今でも覚えていますよ」

小川洋子『やさしい訴え』
  
タグ :小川洋子


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2009年06月03日

森の道




Bordeaux, mars 2006

森の道を,栗色の,知らない母が駆けてきたあの日のように,このさき彼のめざめは,よくひえたローマの情欲にきつく抱かれるのだ。明け方のふるえとともにこの町のかわらは,やわらかい音をひいてくずれるだろう。彼は家族をひたすつめたい光景をひそかにおさえ,ひたいのもやをいまいちど掃きわける。

荒川洋治「初期中世のひかりに」in『荒川洋治詩集』
  
タグ :荒川洋治


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2009年06月02日

海の恒星




Kaïmon, juillet 2006

ああ とおくからやってきたなあ
今朝
死ぬほど眩しい貴女のそばから
ひとつの世界の完璧さを想わせる
貴女のなかから
恒久運動の塀の外へ撥ねだす電子のように
ほんとに偶然に
飛びたってきた

貴女の濡れた腿の淵から
巨大な竜巻となって
蒸れたってきた

ぼくは時間の大伽藍をひとめぐりして
純金の笛になって帰還するよ

吉増剛造「海の恒星」in『続・吉増剛造詩集』(『黄金詩編』)
  
タグ :吉増剛造


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2009年06月01日

私を救ってくれた一言




Kagoshima, [Aujourd'jui]

「本当に大事なことは,明日何をするかということなの」

Yasmina REZA in Le Monde [20 avril 2009] / 拙訳
  


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