2009年07月16日

手紙

手紙


Kagoshima, novembre 2008

手紙

流しのステンレスには
丸まったなしの皮,ひとつづき
その裏側へも
手紙をまっているきもちが
ずっとふりつもってしまった
まっていると
いじわるのように手紙はこない
またないふりで
空ばかりあおいでいる方がいい
それで夕やけをたくさん見た
きょうも のぼり坂ばかり歩いている

冬木町の伝言板には
五つの顔の氏名手配書があって
そのうちのひとつに
ご協力ありがとうの張紙
街のなかで
強盗暴行犯の顔がひとつだけ忘れられていた
その日 風がつめたくふいて
十一月がきた
ゆびわをしていないので
私のくすり指は すこし
オキシドールのにおいがする

目鼻をきちんとつけておいて下さい
会いにいきます
うすい手紙が一通
夜になってから まいこむ

小池昌代「手紙」in『小池昌代詩集』(『水の町から歩きだして』)


タグ :小池昌代


Posted by Nomade at 23:05│Comments(0)
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