2009年07月14日
眠っている彼女
Paris, mars 2008
僕は眠っている彼女を眺めるのが好きだ。もちろん,抱き合っている時の彼女も,僕に話し掛けている時の彼女も,ぼんやり遠くに目をやっている時の彼女も好きだけれど,眠っている彼女は僕を一番安らかにする。途切れることなく次々と,見知らぬ誰かの娘や孫や母親になっていって,結局,眠りに落ちた時だけしか,本当の自分を僕に見せてくれない気がするからだ,口紅を落とした,素肌の唇を眺めることができるのは,ベッドの中だけだ。
小川洋子「彼女はデリケート」(抜粋)in『アンジェリーナ』
Posted by Nomade at 23:14│Comments(0)