2008年10月08日

始めてあの人に会った時...

始めてあの人に会った時...


Aso, mai 2008

「初めて兄貴に会った時,どう思った?」
「そうね......」
 もったいぶって私は紙コップのコーヒーを揺らし,ゆっくりと一口飲み込んだ。
 本当はその質問にはすぐ答えられた。あの日のことを,忘れるはずがなかった。
「変に思わないでね」
 彰はうなずいた。
「自分は選ばれた人間だって,感じたのよ」
 〔...〕続きの言葉を聞こうと,彰はじっとこちらを見ていた。
「この人に出会えるなんて,私は神様から特別に選ばれた人間に違いない,そう思ったの。......おかしいわね」
 私は紙コップをベンチの下に置き,足を組み替えた。〔...〕爪先がじんじんした。

小川洋子『凍りついた香り』

いつも同じ作家で恐縮ですが... 小川洋子の日本語の美しさには,ただただおののくばかりです。

タグ :小川洋子


Posted by Nomade at 14:49│Comments(0)
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