2010年04月18日
牡丹
Paris, mars 2009
牡丹圏
とほくは虹ともかすみとも。
だんだらの靄ともみえる絢爛の。
千万万の。
牡丹の花。
色と匂ひのずつしりに。
乱れ舞ひ舞ふ蝶蝶の。
めくるめくそのちらちらちら。
天は群青。
陽は白金(プラチナ)。
風沸けば。
沸きあがる色色の色の渦巻き。
鉦と笛とを伴奏にしていま。巌の如き猩猩が胡座のままでせりあがる。針の赤髪。錦の大
衣。貌(かお)赤く眼玉もあかく。赤い手に朱の大盃。銅鑼が鳴る。どくどくどく。銅鑼が
鳴る鳴る。
この俺は。
十七たびも死んできた。
今日もまた俺は死んでゆく。
銅鑼はごんごん。
海の念仏。
酒は満満。
死出の盃。
亜細亜に天のあるかぎり。
亜細亜の天を朱に染めて。
俺は踊るぞ。
生の舞ひ。
俺は歌ふぞ。
血の歌を。
むんずと立って修羅の如。
牡丹の花を右手に持ち。
金と朱との衣はゆすれ。
針の大髪大那波波。
花はちぎれて宙にとぶ。
とほくは虹ともかすみとも。
だんだらの靄ともみえる万万の。
ああ沸きあがる色の渦巻き。
蝶の乱乱。
草野心平「牡丹圏」in 『草野心平詩集』(『牡丹圏』)
Posted by Nomade at 11:30│Comments(0)