2010年03月05日
部屋
Neuilly, mars 2009
独立
ただ生きているだけで
生涯一つの言葉にも出会いはしない
その確証がある!
人間,狂うために生まれてきたもの
天の星を箒ではくために
今朝も
ぼくは
荘子,逍遥遊編を投げすてる
そして激しく机上を乱打する
両手をあげて部屋のなかを歩きまわる
一隻の船のように
だれもがそれぞれの作法で
世界を消す
権利を認める
その確証がある
今朝も
ぼくは
茫然と韻をふむ
バッハ,遊星,0(ゼロ)のこと
バッハ,遊星,0(ゼロ)のこと
両手をあげて部屋のなかを歩きまわる
ぼくはここで死んでゆくのか
一人でワルツを踊るようにして
そしてまた
机上を激しく乱打して
また韻をふむ
バッハ,遊星,0(ゼロ)のこと
物語狂め!
ぼくは素足で韻をふむ
水面上で韻をふむ,虹の根元で音をたたく
両手をあげて部屋のなかを歩きまわる
…………
数時間すると
二,三人,死人たちが出てきて踊りだす
吉増剛造「独立」in『続・吉増剛造詩集』(『黄金詩編』)
Posted by Nomade at 12:10│Comments(0)