2009年12月28日
武器
Kanoya, mai 2006
私は荒野しか見えない一軒家の壁に吊られた父の拳銃にさわるのが好きであった.それは,どんな書物よりもずっしりとした重量感があった。父はときどきそれを解体して掃除していたが,組み立て終わるとあたりかまわず狙いをさだめてみるのだった。その銃口は,ときに私の胸許に向けられることもあったし,ときには雪におおわれた荒野に向けられることもあった。今も私に忘れられないのはある夜,拳銃掃除を終わった父の銃口が,まるで冗談のように神棚に向けられたまま動かなくなったことだった。びっくりした母が,真青になってその手から拳銃を奪いとって,「あなた,何するの」とふるえ声で言った。神棚には天皇陛下の写真が飾られてあったのである。
寺山修司「誰か故郷を想はざる」in『寺山修司詩集』
Posted by Nomade at 16:44│Comments(0)