2009年11月21日

彼女の赤い臀(しり)

彼女の赤い臀(しり)


Takachiho, août 2008

「航海」

蒸暑い。……白ペンキの船欄干に
豹の毛皮の波の照返し。
なんだ。麦酒(ビール)はみんな,ぬるま湯ぢやないか。

……私の船は今,木曜島沖を横振してゐる。あたまでつかちな煙突と,通風管。

放縦なダヤーク人の裸の良候(ボン・クリマ)だ。
私は,人骨に彫りをした首飾りを
胸のところでカタカタ鳴らしてみた。

彼女の赤い臀(しり)の穴のにほひを私は嗅ぎ
前檣(ぜんしやう)トップで,油油にひたつてゐた。

跛(びつこ)になつた海鳥がピーピー鳴きながら
骨牌(かるた)のやうにしづかにひるがへる。


金子光晴「航海」in『金子光晴詩集』(『路傍の愛人』)


タグ :金子光晴


Posted by Nomade at 19:49│Comments(0)
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