2009年10月08日

夜


Kyoto, février 2009

「暗黒」 シヤアル・ボオオドレヱル

森よ,汝,古寺の如くに吾を恐れしむ。
汝,寺の楽の如く吠ゆれば,呪はれし人の心,
臨終の喘咽(あえぎ)聞こゆる永久(とこしえ)の喪の室に,
DE PROFONDIS歌ふ声,山彦となりて響くかな。

大海よ,われ汝を憎む。狂ひと叫び,
吾が魂は,そを汝,大海の声に聞く。
辱めと涙に満ちし敗れし人の苦笑ひ,
これ,おどろおどろしき海の笑ひに似たらずや。

されば夜ぞうれしき。空虚と暗黒と
赤裸々求むる我なれば,星の光覚えある言葉となりて
われに語らふ,其の光だになき夜ぞうれしき。

暗黒の其の面こそは絵絹なりけれ。
亡びたるものども皆覚えある形して
わが眼(まなこ)より数知れず踊りて出づれば。

『珊瑚集:仏蘭西近代叙情詩選』/ 永井荷風訳




Posted by Nomade at 22:26│Comments(0)
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