2009年08月27日

空っぽのプール

空っぽのプール


Kagoshima, novembre 2008

 わたしは空っぽのプールで足をぶらぶらさせた。水が入っていた時には気がつかなかったが,底には貝殻の模様がペイントしてあった。彼はその貝殻を一つ一つ,念入りに磨き上げていった。濡れた肩の筋肉が,闇の中にくっきりと浮かび上がって見えた。テラスの方でお客さんたちの笑い声が聞こえた。けれどプールには,わたしと彼以外誰の姿も見えなかった。泳げないプールになど,みんな用はないのだろう。ブラシの音だけが二人の間を漂っていた。

小川洋子「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」in『アンジェリーナ』


タグ :小川洋子


Posted by Nomade at 22:29│Comments(0)
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