2009年05月29日

エロティックなおもさ

エロティックなおもさ


Bordeaux, septembre 2007

りんご

ところで
きょうのあさは
りんごをひとつ てのひらにのせた

つま先まで きちんと届けられていく
これはとてもエロティックなおもさだ

地球の中心が いまここへ
じりじりとずらされても不思議はない
そんな威力のある,このあさのかたまりである

うすくあいた窓から
しぼりたての町並みがこぼれてくる と
どこかで とてもとうめいは十指が
あたらしい辞書をめくるおと
おもいきりよく物理的に
とんでもないほどすがすがしく
わたしのきもちをそくりょうしたい
そんなあさ
りんごはひとつ てのひらのうえ
わたしはりんごのつづきになる

なくなったきもち分くらいのおもさ か

あのひとと もう会わない
そうして
きょうのあさは
りんごをひとつ てのひらへのせた

小池昌代「りんご」in『小池昌代詩集』(『水の町から歩きだして』)


タグ :小池昌代


Posted by Nomade at 09:34│Comments(0)
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