2009年03月17日
王女
Saint-Sève, mars 2008
「あたしのおもしろい侏儒がすねているのよ」王女は叫びました,「侏儒を起こして,あたしのために踊れとおっしゃってくださいな」
ふたりは顔を見合わせてにっこり笑うと,ぶらぶらはいってきました。そしてドン・ペドロはかがみこむと,刺繍をした手袋で,侏儒の頬をぴしゃりと打ちました。「踊らなければいけないぞ」彼は言いました,「ちっちゃな化け物(プチ・モンストル)よ。踊らなきゃだめだ。スペインおよび西インド諸島の王女さまが,楽しみごとを所望なのだ」
ところが,小さな侏儒は,身動きひとつしませんでした。
「笞刑頭(ちけいがしら)を呼びよせなくては」ものうげにドン・ペドロは言うと,テラスへ引き返していきました。しかし侍従はまじめな顔をして,小さな侏儒のそばにひざまずくと,手を侏儒の心臓にあてました。しばらくして,侍従は肩をすくめて,立ちあがると,王女はうやうやしく一礼して,言いました。
「わがうるわしき王女さま(ミート・ペルヤ・プリンセサ),王女さまのおもしろい侏儒は,もう二度と,踊りはいたしませぬ。残念でございます,これくらい醜ければ,王さまをお笑わせすることもできましたろうものを」
「でもどうして二度と踊らないの?」笑いながら王女はたずねました。
「心臓が破れたからでございます」と侍従は答えました。
すると,王女は顔をしかめ,あでやかな花びらに似たくちびるを,美しい軽蔑でゆがめました。「これからは,あたしのところへ遊びにくるものは,心臓のないものにしてね」と王女は叫ぶと,庭へ走りでました。
オスカー・ワイルド「王女の誕生日」in『幸福な王子』
Posted by Nomade at 12:02│Comments(0)