病人

Nomade

2013年04月06日 22:35





 
病人は,何時間も,ひとりで横臥していた。その間,すこし熱がひいてきて,ときおり浅くまどろむこともできた。しかし,それ以外は,衰弱のため身動きできなかったので,天井を見あげて,さまざまな想いと闘いつづけねばならなかった。もっとも彼の思いは,そもそも拒絶するというだけで精一杯だったようである。なにを考えはじめても,すぐ退屈してまた苦痛となったので,全力を尽くして想念を絶とうとしたのである。

Lyon, mars 2011


カフカ「断片:ノートおよびルース・リーフから」飛高節訳 in『カフカ全集3』